多くの人にとり、病院という非日常の、いわば異次元の空間では、平日の外来の日中はとりわけ慌ただしく時が過ぎてゆく様に感じます。そんな中、短いひとときですが、柔かく温かいピアノの音色を耳にされる事で、ほんの少しでもリラックスして、皆様に心和んで頂ける様な瞬間をお届け出来たらと心より願っております。ご入院中の患者様を始め、診察を待たれる間の方、お付き添いの方、また健康でご近隣にお住まいの方々等、どなたでもお聴き頂けます。人間には薬や言葉による治療が不可欠である様に、それぞれに効能は異なりますが、音楽もまた特別の良い何かをもたらす役割について、これから先の時代では、更にその必要性が求められてゆくのではないかと想像致します。音楽で癒えるものは、何も心だけの問題ではなく、また体にも良い作用を与えるという事が、昨今でもエビデンスとして言われる様になり、病院や施設での（単純に一見すると、人の命を扱う深刻な場所で、時にイメージがそぐわないと思われる事があるかもしれませんが）音楽の重要性について、演奏を通して皆様とひとときを共有させて頂く中で、改めて思いを巡らせてみたいと考えております。

この度、記念館で開催されるコンサートでピアノ演奏をさせて頂く事になりました。大学で学ばれる学生さん方を始め、ご近隣にお住まいの方々も気軽にお越し頂いて、鑑賞を楽しめるランチタイムのコンサートです。奈良と言えば東大寺がその圧倒的な存在感を示していますが、フランスに留学をしていた頃に、何とあの大仏様がはるばるパリのグラン・パレという博物館まで来国したという事がありました。お習いしていた教授夫妻や門下生の仲間と共に（拝むためではなく）観るために訪れ、表情や姿の美しさに感嘆した事が昨日の様に思い起こされます。改めて日本の宗教美というものに触れ、新鮮な感動を覚えたひとときでした。その様な日本の伝統や歴史の素晴らしさに溢れた奈良の、また由緒ある大学で、誰もが耳にされている名曲と共に、音楽を通して皆様方とほっこり心和むランチタイムを過ごさせて頂けたら心より嬉しく思っております。