コラム

誰がそれを行うか…が重要です

例え意図せずとも、人に不快な思いをさせる行為をハラスメントと呼びますが、現代ではなんと30以上ものハラスメントが存在するそうです。
ニュースで頻繁に耳にする悪質なものとは、少し性格が異なるのかもしれませんが、フォトハラとは、相手の許可を得ず写真を撮影したり、またその写真を無断でSNSにアップする事であり、カラハラは職場の付き合いで参加した人に、歌いなさいと強要する事であったり、こちらはあまり聞き慣れませんが、エアハラという空調に関するハラスメントもある様で、夏に会社等で他の職員が寒がる姿を見ても、自分は暑いからと、エアコンの温度を下げる様な行いをする事を指すのだそうです。
写真やカラオケに関して言えば、周りの人々を楽しい気持ちにさせようと、良かれと思ってする事が、結果的にはその様に捉えらえてしまう場合もあるのかもしれませんね。

さて、ハラスメントという言葉を考える際に、私はある小さな経験を思い起こします。
以前、体調を崩して大学病院にお世話になる事があり、その時に映画のスクリーンにでも登場する様な、若くてとびきり美人の看護師さんと出会いました。
最近では、看護師さんの制服もパンツルックが主流ですが、彼女はと言えば、いわゆるクラシックな白いタイトのミニスカート・スタイルで、それが華奢な姿によく似合って、きびきびとした姿が印象的でした。
ところが、日本の医療者には大変めずらしく、その方は香水を身にまとわれていました。それも、まるで夜会か何かに出掛けて行く様な、ゴージャスで華やかな百合の香りでした。
そして、何故かその看護師さんが私の血圧を測られる時だけ、数値がいつもより高くなり、なんと10以上も上がってしまうのです。

理由は明白でした。私自身も香水をつける位ですから、その百合の香りは決して嫌いではなかったのですが、人は体調が優れないと、匂いにも過敏に反応してしまう様で、「少々香りがきついなあ…」、そんな事を思うだけで、血圧は上昇してしまうのでした。
彼女も、数値が高くなる事に気付かれて、「どうして私が測る時だけ上がるのかな?」と心配され、いぶかしげな面持ちで、納得がいかないと言った様子で、毎回病室を去って行かれました。
私は、彼女の個人的な趣味・嗜好について、意見したくはありませんでしたし、また医療に携わる方が、何を身に付けるかは夫々の自由であるべきではないかと考えていますので、私の血圧値をひどく気にされていた彼女に、一体どの様に言ったら気持ちが落ち着くだろうかと、アイデアを巡らせました。
そして、(苦肉の策ではありましたが)ひとつの案が浮かびました。
「実は、私は白衣高血圧で、病院で測ってもらう時は、たいがい高めなのが普通なんですよ。」
その様に言えば、彼女の気も少し楽になるだろうと考えたのです。
実際に言うと、看護師さんは「そうですか、白衣高血圧なのですね…」と頷かれて、それからしばらくの間、上を見て考えておられました。

翌週、またその看護師さんが病室に来られて、血圧を測定して頂く事になりました。
ところが、驚いた事に、その日は彼女はいつもの白いナースウェアではなく、淡いピンクのパンツスーツという装いでした。
「あら? 今日は白じゃなくて、ピンクのお洋服でめずらしいですね!」
と声を掛けると、彼女は「この間、塩見さんが “白衣高血圧だ” と言われていたので、今日はピンクの服を着て来ました。だから、今日は血圧が下がってくれたら良いなあと思って!」と満面の笑みで答えられたのです。

その大変若い看護師さんが、白衣高血圧の言葉の意味をご存じなかった事は、ひとまず横に置いて…(!)、悪意等はみじんもない、その百合の香りの、名付けるならば “スメル(=匂い)・ハラスメント” なるものが、この時一瞬にして払拭され、姿を消した事は言うまでもありません。
そして、この人間味あふれる看護師さんの思いに、私は少しでも応えられる様、心の中で「どうか3でも4でも良いから、血圧が下がってくれます様に…」と、百合の高貴な香りに包まれながら、何度も祈りました。
きっとその声が天に届いたのでしょう。測って頂くと、なんとその時、上の数値が5ほど下がったのでした(!)。
彼女は、満足そうに微笑んでいました。私も、ほっと胸をなでおろして、安心した事を覚えています。
それ以降、私の血圧を測定される日には、いつもピンクの仕事着で来られる様になりましたが…(!!)、彼女の純粋な心の優しさに対して、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。
ハラスメントどころか、実際にはその真反対である感情を、行動で示して下さった訳ですね。

ヨーロッパの人々がよく言う言葉に、「同じ行いでも、それを誰がするのかで、ハラスメントになるか、そうでないかが別れるでしょう?」というものがありますが、きっと読者の皆様も、言い得て妙だと、頷かれるのではないでしょうか。
今一度、自分自身の行いが、他人に快・不快の何を与えているかについて考えながら、意識をして日々を過ごす様に心掛けたいものです。
















2019.02.05 23:55

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