一期一会のおもてなし~奥深い和洋の茶の文化~
我ながら、幾年と勉強を重ねましても、トリリンガル(三カ国の言葉が堪能)には程遠く、拙い語学力のレヴェルではありますが、そんな自身でも通訳を仰せつかる事がしばしばあります。
専門分野を生かして行うアーティストや音大教授のレッスン並びに来日時のサポートを始めとして、面白いものではタイタニック風の豪華客船ではるばる来られた船員や乗船客の為の日本の観光ツアーでの案内、或いは各種セレモニーでの要人の方々の責任の伴う通訳の大きな仕事、また日本を初めて訪れた方々に実際に体験をして頂きながら知る文化をお伝えする等の事が多いでしょうか。
まさに一期一会ですが、様々な国の方にお目に掛かり、数日或いは一日だけ、そして時には数時間ばかりを共に過ごさせて頂くという、まさに宝となる様な数々の出会いの中で、喜びの溢れるかけがえのないひとときが通訳の仕事によってもたらされるのです。
しかしながらよく考えてみますと、偉大な作曲家の残した作品を死後に我々演奏者が奏している作業も、実は彼らの描いた構想ををいかに音楽として人々へ伝えるべく楽譜から読み取って音に託せるか、言わば彼らの残したメッセージをいかに忠実に“通訳”し再現出来るかという仕事であり、言葉と音の違いはありますが、行っている事はほぼ同じアートと言えるのかもしれません。
先日、或る地域で夏祭りに一行を案内し、その翌日にはイヴェントでの「日本文化初体験シリーズ」のお手伝いをしてまいりました。
私が担当したのは、「茶道の体験」というもので、書道・華道と並び自身も大変関心を持つ日本文化のひとつで大変喜ばしい限りでした。
お相手は十代の若い中高生達でしたが、初体験という事でこちらもはりきって準備していたものの、昨今のインターネットの普及で、会った時には皆さん数多(あまた)の情報を既に得ており、「“抹茶ラテ”が大好きでよく飲みます!」と言っていた子達が非常に多い事に驚き、グリーンティーはもはや説明も要らずコーヒーの様に国際化しているのだという事を嬉しく知りました。
しかしながら、流石にお抹茶を実際に和菓子と共に頂く事は初めてと言う若者が大半で、また更には希望者へ、自らお茶を点てる事が出来るという初体験のプレゼントもこちらで用意しました。
皆さん感激しながら茶筅とお抹茶の器を手に取り、慣れない手つきで点てて味わうと、異口同音に「お茶がとても苦い」としかめつらをしながら言い、スペインから来た男子高校生は真面目な面持ちで、「自国の人々は、間違いなくこれに砂糖を入れたら美味しいと感じると思う」と感想を述べていました。
思い起こしたのは、イギリスに留学していた折に、訪問先では必ずサンドウィッチやスコーンまたビスケットと共に紅茶が振る舞われたのですが、ブラックティーのまま頂こうとすると、すぐさま次の如く指導の言葉が発せられたものでした。
「あなたは本当の紅茶の飲み方を知らないといけません! 必ずミルクと角砂糖を少なくとも2つは入れないと…!」
ですから、スペインから来た学生が発したその一言は、まさにヨーロッパ的発想だとすぐに納得がゆきました。
例えば、食文化の異なる興味深い点に、和食ではお惣菜と白米を同時に口へ運び、口の中で味の相互の一体感を味わって頂くのが基本スタイルであるのに対し、洋食はフルコースに見られる様に一つ一つのお皿のお料理の完結した味わいを楽しむべきスタイルであるというものがあります。
それを踏まえると、イギリス式の紅茶の「正しい飲み方」も然り、そしてまた私の「サンドウィッチとセットならばブラックティーの方が断然好ましい」も然り…です。
やはり、お茶ひとつとりましても、文化の違いというのは非常に面白いものだと改めて感じた一日となりました。
様々な出会いやお茶を通して発見をした後、帰宅し、早速私も晩年祖父が創ってくれた自慢の萩焼で、お抹茶を点てて頂く事にしました。
茶道の先生にお習いした様に、一切の雑念を消し、心を込めて、そして優しく空気を入れる様にして茶筅を上下にリズミカルに動かしながら、美味しいお茶が点てられる様、気を一点に集中しました。
何も加えていなくともほんのり甘く、マイルドで味わい深いという様な、先生が立てて下さるお茶には到底及びませんでしたが、心身共にリラックスして頂く純粋な苦いお抹茶は、日本人である事の喜びをより一層感じられる瞬間を与えてくれました。
2015.08.29 22:55
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