「癒し」から「救い」への道のりについて
私が演奏活動を続けている中で、常々考える事のひとつに、「芸術は果たして人々を救う事が出来るのか」、という問いが在ります。
食糧難で飢餓に苦しむ人、そして経済的に切り詰められた状況で生活を余儀なくされている人、また現代の医学では完治せず、人智の及ばない所に原因がある様な病と闘っている人、或いは余命を宣告され、運命を受け入れて天国からの迎えをただ静かに待つ人・・・
神様からも見放されたのではないか、と自身が感じる様な状況に置かれた人々にとって、音楽は真に心の拠り所になるのか、即ち「救い」になりうるのか、という問いです。
恐らく、私は一生を掛けて、この難問と対峙し、何かしら答えとなるべきものを追求してゆくであろうと思います。人間の一生ほどの時間では、全くもって足りないかも知れませんが・・・。
音楽を「魂の癒し」という観点から見て、個人的な経験を挙げると、小・中学生の頃、体調を崩して学校を休んだ時には、氷枕の上に頭を置いて寝て、よくレコードを聴いていました。
愛聴したのは、バックハウスとケンプの演奏による、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集です。
これには理由があって、やはり具合が悪い時は、子供ながらに孤独感を感じていたのですが、ベートーヴェンを聴くと、静かではありますが、何かしら心に強いパワーの様なものが沸々としてくるのを感じられ、元気を与えられる様な気がしていたのです。
反対に、39度以上の高熱が出ると、迷惑していたのは、決まってモーツァルトの音楽が頭の中で流れ始める事でした。
その様な時、私にとって、モーツァルトは、単に忌々しい音楽で、一刻も早く消え去ってほしいと願いますが、不幸な事に何度もリフレインするのです。この状況は、大人になった今でも変わりません。
曲は、オペラのコロラトゥーラによるアリアや交響曲が多いのですが、長調か短調に関わらず、どれほど明るい作品でも、心から哀しくなるのです。小林秀雄が評した「疾走する悲しみ」は、まさに言い得て妙です。
この経験から、私は相反するパラドクサルなひとつの結論を導きました。
「音楽によって救われる精神」と「音楽によって害される肉体」が、同一の人間の身の上に成り立つという事です。
このイデーは普遍的ではない事は確かですが、恐らく音楽を純粋に聴いた結果、精神の浄化作用をもたらすものとして捉えられた事と、また音楽表現者としての苦しみのひとつである、常に音楽に束縛されているのだという認識が、日頃よりも理性を失っている病気の身であるという状況によって、同時に激しく起こっている為だと考えます。
個人的には、ベートーヴェンの崇高な音楽により、魂というレヴェルのでの癒しを与えられた事は確かですが、また一方で、肉体はどこかしら音楽から解放されたいと望んだ、こちらもれっきとした疑いのない真実なのです。
あらゆる人々を対象とした時、音楽が真に安らかな、心の救いとなり得る事が出来るのか。
それこそ生涯を通して、この難題を実現に向けてゆく事が、演奏活動を続ける意義だと言えるのかも知れません。
単に「癒される」という次元を超えて、音楽が人々の本当の心の支えとなる「救い」となれる道が果たしてあるのか否かについて、これからも時間を掛けて、じっくりと探し求めてゆきたいと考えています。
食糧難で飢餓に苦しむ人、そして経済的に切り詰められた状況で生活を余儀なくされている人、また現代の医学では完治せず、人智の及ばない所に原因がある様な病と闘っている人、或いは余命を宣告され、運命を受け入れて天国からの迎えをただ静かに待つ人・・・
神様からも見放されたのではないか、と自身が感じる様な状況に置かれた人々にとって、音楽は真に心の拠り所になるのか、即ち「救い」になりうるのか、という問いです。
恐らく、私は一生を掛けて、この難問と対峙し、何かしら答えとなるべきものを追求してゆくであろうと思います。人間の一生ほどの時間では、全くもって足りないかも知れませんが・・・。
音楽を「魂の癒し」という観点から見て、個人的な経験を挙げると、小・中学生の頃、体調を崩して学校を休んだ時には、氷枕の上に頭を置いて寝て、よくレコードを聴いていました。
愛聴したのは、バックハウスとケンプの演奏による、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集です。
これには理由があって、やはり具合が悪い時は、子供ながらに孤独感を感じていたのですが、ベートーヴェンを聴くと、静かではありますが、何かしら心に強いパワーの様なものが沸々としてくるのを感じられ、元気を与えられる様な気がしていたのです。
反対に、39度以上の高熱が出ると、迷惑していたのは、決まってモーツァルトの音楽が頭の中で流れ始める事でした。
その様な時、私にとって、モーツァルトは、単に忌々しい音楽で、一刻も早く消え去ってほしいと願いますが、不幸な事に何度もリフレインするのです。この状況は、大人になった今でも変わりません。
曲は、オペラのコロラトゥーラによるアリアや交響曲が多いのですが、長調か短調に関わらず、どれほど明るい作品でも、心から哀しくなるのです。小林秀雄が評した「疾走する悲しみ」は、まさに言い得て妙です。
この経験から、私は相反するパラドクサルなひとつの結論を導きました。
「音楽によって救われる精神」と「音楽によって害される肉体」が、同一の人間の身の上に成り立つという事です。
このイデーは普遍的ではない事は確かですが、恐らく音楽を純粋に聴いた結果、精神の浄化作用をもたらすものとして捉えられた事と、また音楽表現者としての苦しみのひとつである、常に音楽に束縛されているのだという認識が、日頃よりも理性を失っている病気の身であるという状況によって、同時に激しく起こっている為だと考えます。
個人的には、ベートーヴェンの崇高な音楽により、魂というレヴェルのでの癒しを与えられた事は確かですが、また一方で、肉体はどこかしら音楽から解放されたいと望んだ、こちらもれっきとした疑いのない真実なのです。
あらゆる人々を対象とした時、音楽が真に安らかな、心の救いとなり得る事が出来るのか。
それこそ生涯を通して、この難題を実現に向けてゆく事が、演奏活動を続ける意義だと言えるのかも知れません。
単に「癒される」という次元を超えて、音楽が人々の本当の心の支えとなる「救い」となれる道が果たしてあるのか否かについて、これからも時間を掛けて、じっくりと探し求めてゆきたいと考えています。
2012.10.30 21:25
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