甘いかしょっぱいか、それが問題である
初めて訪れた国で頂くお食事の味の記憶は、一生の体験として、いつまでも色褪せる事はありません。
それが美味しいものであれば、尚更ですが、例えその反対であっても… それはそれで微笑ましい思い出です。
高校時代に訪れたパリで、最初に口にしたバゲット(フランスパン)の味は、今でも忘れる事ができません。
焼きたての表面はカリッとして、中はしっとり、ほど良い塩味で、あまりの美味しさに感激し、その時初めて「本物のパン」の素晴らしさを知りました。
海外から日本を訪れた方が、炊きたてのササニシキやコシヒカリの白米を一口食べた時の気持ちに似ていると言えるかもしれません。
何故なら、それは日本のベーカリーで売られているバゲットも、欧米のレストランで提供される白いご飯も、本物とはまるでかけ離れたものであるからです。
その反対に、フランスの「珍味」として印象に残っているのは、やはりエスカルゴ(カタツムリ)でしょうか…。
カタツムリは無味無臭で、にんにくやパセリを含んだエスカルゴ・バターと一緒に頂きますが、食感はコリコリとして、しめじか何かのキノコを連想させる様です。
東京に在住し、親日家ではありますが、私のフランス人の友人は、日頃からうな重を見て、「よくこのぬるぬるした魚を食べられるよね~!」と、嫌悪感を示すので、「生のまま出されてはいないし、何が問題なの? じゃあ、そっちのカタツムリは、何なのよ!」、と反論してはみるのですが、友人も「いつもカタツムリを食べている訳ではない! 特別な時しか食べないし、それにぬるぬるなんてしてないもんね!」、と負けてはいません。
食文化の違いから生まれた、甘い物(スイーツ)と塩辛い物(お腹を満たす食事としての料理)の小さな定義には、欧米人と日本人との間で、少なからずのギャップがある様です。
イギリスが発祥の地と言われる「ライス・プディング(プリン)」ですが、これはお米を牛乳とお砂糖で煮込んだ、スイーツに属する食べ物です。
白米を主食として育った私などからすると、「お米が甘いとは、何ぞや…(?)」という気持ちにさせられてしまう、少し特別なお味のするプリンです。
イギリス王立音楽院の学生食堂にも、このライス・プディングが、デザートのメニューとして登場していましたが、こちらは牛乳ではなく、とろりとしたカスタードクリームの中に、茹でたお米の粒が入っている、まさにプリン+白いご飯と言った風でした。
初めて口にした時の衝撃は… 非常に大きいものでした。(バゲットとは正反対です…。)
炊いたご飯を、プリンをおかずにして食べた、という表現がぴったり合うかと思います。
残念ながら、それ以来、ライス・プディングを口にするという機会は二度と訪れませんでした…。
しかし、イギリス人の同級生と、当時ロンドンのピカデリー大通りにあった「源吉兆庵」に足を運んだ折の事、平安時代をイメージした美しいデコレーションが施された店内で、目に止まった素敵な和菓子を購入すると、お店の方がお抹茶と果物をデザインした繊細な練り切りをサービスして下さいました。
私は、異国の地で、日本の味を懐かしく味わいながら、その同級生の言葉に耳を傾けました。
「私はこの甘さ控えめな和菓子が本当に好きだけれど、でも初めて食べた時は、あんこみたいにお豆が甘いのが、ちょっとびっくりしたわ」、と言うのです。
確かに、ヨーロッパでは、小豆を食べる習慣がなく、豆ならば、それはおかずであり、いんげん豆やひよこ豆、レンズ豆等が入ったサラダや、或いはチリコンカンと呼ばれる、お肉と豆を一緒に煮込んだ料理を頂くのが一般的です。
なるほど、これはもしかすると、お米が甘いのがしっくりこないのと同じ感覚であるのかもしれません。「豆が甘いとは… 一体どういう事?!」 彼らが違和感を持つのは当然ですね。
甘いか、しょっぱいか… それが問題なのです。
甘い物と塩辛い物に対する、いわば日本人の固定概念の様なものを、グルメの国フランスでも、思い知らされる事があります。
日本でも人気の高いクレープですが、実は本場では「甘いクレープ」と「塩辛いクレープ」に分かれており、後者はガレットと呼ばれる、そば粉とお塩、水だけを使用して作られたクレープの生地に、ハムや卵、チーズ等を合わせて頂く料理を指します。カフェで提供される、ランチの定番メニューのひとつです。
クレープと聞けば、日本人の私達は、食事の合間に頂くおやつのそれをイメージしますが、フランスでは、この様にクレープはスイーツでもあり、またお腹を満たす食事としても、立派に存在するのですね。
もちろん、お好みの方を選べますが、どちらもほっぺたが落ちるほどの美味しさです。
もしフランスに行かれる機会がありましたら、ぜひ両方のお味を召し上がって、(少し大袈裟ですが)どうぞ固定概念を打破されてみて下さいね。
このコラムをしたためておりましたら、様々な「甘い」と「しょっぱい」が蘇ってきて… ヨーロッパの味が少し恋しくなってまいりました。
コロナ以前の様に、日本と海外を自由に行き来できる日が早く戻る事を、心から願っております。
それが美味しいものであれば、尚更ですが、例えその反対であっても… それはそれで微笑ましい思い出です。
高校時代に訪れたパリで、最初に口にしたバゲット(フランスパン)の味は、今でも忘れる事ができません。
焼きたての表面はカリッとして、中はしっとり、ほど良い塩味で、あまりの美味しさに感激し、その時初めて「本物のパン」の素晴らしさを知りました。
海外から日本を訪れた方が、炊きたてのササニシキやコシヒカリの白米を一口食べた時の気持ちに似ていると言えるかもしれません。
何故なら、それは日本のベーカリーで売られているバゲットも、欧米のレストランで提供される白いご飯も、本物とはまるでかけ離れたものであるからです。
その反対に、フランスの「珍味」として印象に残っているのは、やはりエスカルゴ(カタツムリ)でしょうか…。
カタツムリは無味無臭で、にんにくやパセリを含んだエスカルゴ・バターと一緒に頂きますが、食感はコリコリとして、しめじか何かのキノコを連想させる様です。
東京に在住し、親日家ではありますが、私のフランス人の友人は、日頃からうな重を見て、「よくこのぬるぬるした魚を食べられるよね~!」と、嫌悪感を示すので、「生のまま出されてはいないし、何が問題なの? じゃあ、そっちのカタツムリは、何なのよ!」、と反論してはみるのですが、友人も「いつもカタツムリを食べている訳ではない! 特別な時しか食べないし、それにぬるぬるなんてしてないもんね!」、と負けてはいません。
食文化の違いから生まれた、甘い物(スイーツ)と塩辛い物(お腹を満たす食事としての料理)の小さな定義には、欧米人と日本人との間で、少なからずのギャップがある様です。
イギリスが発祥の地と言われる「ライス・プディング(プリン)」ですが、これはお米を牛乳とお砂糖で煮込んだ、スイーツに属する食べ物です。
白米を主食として育った私などからすると、「お米が甘いとは、何ぞや…(?)」という気持ちにさせられてしまう、少し特別なお味のするプリンです。
イギリス王立音楽院の学生食堂にも、このライス・プディングが、デザートのメニューとして登場していましたが、こちらは牛乳ではなく、とろりとしたカスタードクリームの中に、茹でたお米の粒が入っている、まさにプリン+白いご飯と言った風でした。
初めて口にした時の衝撃は… 非常に大きいものでした。(バゲットとは正反対です…。)
炊いたご飯を、プリンをおかずにして食べた、という表現がぴったり合うかと思います。
残念ながら、それ以来、ライス・プディングを口にするという機会は二度と訪れませんでした…。
しかし、イギリス人の同級生と、当時ロンドンのピカデリー大通りにあった「源吉兆庵」に足を運んだ折の事、平安時代をイメージした美しいデコレーションが施された店内で、目に止まった素敵な和菓子を購入すると、お店の方がお抹茶と果物をデザインした繊細な練り切りをサービスして下さいました。
私は、異国の地で、日本の味を懐かしく味わいながら、その同級生の言葉に耳を傾けました。
「私はこの甘さ控えめな和菓子が本当に好きだけれど、でも初めて食べた時は、あんこみたいにお豆が甘いのが、ちょっとびっくりしたわ」、と言うのです。
確かに、ヨーロッパでは、小豆を食べる習慣がなく、豆ならば、それはおかずであり、いんげん豆やひよこ豆、レンズ豆等が入ったサラダや、或いはチリコンカンと呼ばれる、お肉と豆を一緒に煮込んだ料理を頂くのが一般的です。
なるほど、これはもしかすると、お米が甘いのがしっくりこないのと同じ感覚であるのかもしれません。「豆が甘いとは… 一体どういう事?!」 彼らが違和感を持つのは当然ですね。
甘いか、しょっぱいか… それが問題なのです。
甘い物と塩辛い物に対する、いわば日本人の固定概念の様なものを、グルメの国フランスでも、思い知らされる事があります。
日本でも人気の高いクレープですが、実は本場では「甘いクレープ」と「塩辛いクレープ」に分かれており、後者はガレットと呼ばれる、そば粉とお塩、水だけを使用して作られたクレープの生地に、ハムや卵、チーズ等を合わせて頂く料理を指します。カフェで提供される、ランチの定番メニューのひとつです。
クレープと聞けば、日本人の私達は、食事の合間に頂くおやつのそれをイメージしますが、フランスでは、この様にクレープはスイーツでもあり、またお腹を満たす食事としても、立派に存在するのですね。
もちろん、お好みの方を選べますが、どちらもほっぺたが落ちるほどの美味しさです。
もしフランスに行かれる機会がありましたら、ぜひ両方のお味を召し上がって、(少し大袈裟ですが)どうぞ固定概念を打破されてみて下さいね。
このコラムをしたためておりましたら、様々な「甘い」と「しょっぱい」が蘇ってきて… ヨーロッパの味が少し恋しくなってまいりました。
コロナ以前の様に、日本と海外を自由に行き来できる日が早く戻る事を、心から願っております。
2022.02.17 23:15
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