コラム

テラスから花火を眺めたい

7月14日は革命記念日ですが、フランスでは共和国の成立を祝う日として、「ル・キャトールズ・ジュイエ」と呼ばれ、毎年エッフェル塔付近で、オペラのコンサートや打上げ花火等による華やかな催しが行われています。

花火と言えば、ちょうど20世紀から21世紀に変わる折に、そのパリの同じ場所で見る機会がありました。想像したものより、はるかに規模が小さかったため、せっかく新世紀のお祝いなのに… と少々がっかりしてしまった事を記憶しています。それとは対照的に、一緒に居た友人は満足そうでしたが…。
やはり日本人としては、長岡まつり大花火大会の様に、どうしても豪華絢爛な花火を期待してしまうのかもしれませんね。

さて、ピアノ音楽では、ドビュッシーの前奏曲の最後の24曲目に「花火」という作品がありますが、まさにこの革命記念日の花火を表現したもので、打ち上げられて大きく空に花火が拡がる様子や、色彩と光が目まぐるしく変わる瞬間が、見事に描かれています。また音の高低で空間を表している所が大変映像的な効果をもたらしていると言えますね。
打上げ花火を鑑賞する際に、私が少し苦手とする、大きな破裂音が、実はピアノの鍵盤の一番左端から半音だけ高いB(シのフラット)の音で再現されているのですが、これはそのすぐ後に続く速いパッセージを考慮すると、左手の小指で奏するというのが常識的です。
しかし、この曲について、パリで数名のピアニストの先生のレッスンを受けた所、どなたも「左手の拳で、小指を下にしたグーの形にしてB音を弾くと、音楽を考えた時により効果的になる」、とお教え下さいました。私もその様にしてみると、確かにあのいつもびっくりさせられる破裂音が再現でき、大変興味深く感じられました。
現代音楽に登場するクラスターを奏する目的以外に、こう言った拳の使い方もあるのだという事を知り、学びました。

このB音のみでなく、グリッサンドも使用される等、後の時代の音楽を象徴した作品となっています。また、こうした絵画的な風景の描写は、まさにドビュッシーの作風としてコアを成すものであり、調性の縛りから解き放たれた無調である事や、音の強弱や色彩感、テンポに併せて、様々な奏法を用いる事によっても音楽を構築できるという点において、後の現代音楽に大きな影響を与えたと考えられます。
私自身にとり、「花火」はフランス音楽の中で、鑑賞するのも演奏するのも大好きな作品のひとつです。
最後の「ラ・マルセイエーズ」の所では、あのそびえ立つエッフェル塔の風景が、静かによみがえってきます…。

本来でしたら、この時期には近所で打上げ花火が行われる事になっており、毎年楽しみにしているのですが、新型コロナ感染症拡大防止のため、昨年より中止が続いています。
自宅の2階のテラスから、冷たいビールを片手に眺める花火は格別ですが、今年も見られないという事で、何とも残念です。
YouTubeで今年のパリ祭の花火の映像を観て、否、ミケランジェリの「花火」でも鑑賞して、少し心を慰める事としましょうか…。

2021.07.21 23:35

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