「言葉にならない言葉」というものの意味
留学を終え、帰国してから暫く経ちますが、日本へ戻ったばかりの頃は、改めてこの様に感じたものです。
日本では、あらゆるものが利便性に優れ、否、優れ過ぎていて、例え寡黙であっても、完璧なサービスが施されるばかりか、オーガナイズの行き届いた、あまりにも(!)素晴らしい国だという事。
そして、恐らく必要もないであろうに、私自身がひとりで何故これだけ喋っているのだろうか、とよく自問しながら困惑しておりました。
「沈黙は金」の国然り。日本人であれば多言は慎むべし、というのが品性の証しであり、美しい礼儀作法なのです。
ですから、(恐らく今もそうですが)、伝えたい事は山ほどあっても、なるべく口数を減らそうとして、努力をしながら、人々とコミュニケーションを図ります。
フランスでは、次の如く教えを受け、日々鍛えられたのでした・・・
「考えや思いの全てを語らなければ、周りはあなたの存在さえ忘れ、尊いあなたという人を理解される事など一生ありませんよ!」
人々へ話すという行為は、知能を授けられた高等動物である人間のみが叶えられる事、即ち話さなければ、あなたは「サル」と同じ状態なのだ、とみなされてしまうのです。
やはり、サルトルを生んだ哲学を愛する国、フランスならではの発想です。
ですから、生来かと思っておりましたが、このたいそう理屈っぽい私の性格は、間違いなく留学期に形成されたものだと確信します。
あらゆる詳細に渡り、言葉を駆使して説明する事の意義、それは大変明確で、曖昧さや曇りがなく、シンプルで明解、相手とのやりとりの中で、誤解というものが生じない事が大きい点で、私自身は非常に好んでおります。
ただ、そこに、日本人の美徳とする、一を聞いて十を知るの如き、別の意味における知性を必要とするアートの様なものは、残念ながら存在しません。
また、常にオープン・マインドで接する事に長けている欧米人に、例えば悩みや問題を打ち明けられた時、では言葉にならない深い苦悩を持った人々の気持ちを察するという事が、果たして可能であるのか、それは私には定かではありません。
とりわけ、アメリカでは、「いつも前向きに生きなければ」、という精神を植えつけられる様に見えますが、人々と円滑にコミュニケーションを図る上で、否応にもポジティブであらねばならない必要性が少なからずあるのでしょう。
もし、後ろ向きで、うじうじしていたら、一体何をこの人は言いたいのかさっぱりわからない、と途方に暮れられ、最後には相手にもされなくなってしまいそうですから。
その様に考えると、言葉として発せられないものの中に、何かしらのメッセージを受け取る力を持つ日本人の能力を、もっと評価すべきではないでしょうか。
あまり意見を述べない人を見て、単に主張が無く、黙っているだけの口数の少ない人だと、そう簡単に片付ける事は到底出来ないのです。
これからは、自戒の念を込めて、自分の考えを述べる前に、もっと相手の思いを汲み取るという事へ意識をフォーカスさせて、人々との会話をより円滑に進める事を可能に出来たらと強く願っております。
2014.07.09 23:50
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