人は何によって癒えるのか
皆様は、プラセボ効果ついて、聞かれた事がおありでしょうか。
プラセボは “偽薬” を意味しますが、プラセボ効果は、乳糖やでんぷん等と言った、薬効のない成分でできた偽薬の服用によって、心身の症状が改善する事を表す言葉です。
人は「薬を飲んだ」と思うと、その認識から、実際には有効成分のないはずのものに身体が反応し、効果が発現してしまう事があるのです。
プラセボの語源は、ラテン語の「喜ばせる」から来ているそうですが、医学的な意味は既に1785年には記録されており、「患者の利益よりも喜ばせるために与えられる薬剤」と定義されました。
さて、私の祖母は、薬剤師として仕事をしておりました。
第二次世界大戦が起きる前の、いわゆる戦前の生まれでしたが、当時は女学校を卒業すると、お見合いをして結婚する、そして家庭に入り、子育てに専念、それが女性の一生の在り方の理想とされており、そこに “働く” という選択肢はないと考えられていた時代でした。
しかし、医師であった父親を見て育った祖母は、将来、彼女も医療の現場で人のためになる仕事がしたい、との願いを持つ様になり、十代始めから薬剤師になるという夢を描き始めました。
厳格な曾祖父は、「女に学問は必要ない、結婚が一番幸せな道だ」と、初めは大反対したそうですが、最終的には娘の熱意に負け、応援もする様になり、幸いに大学に入学して学べる事となりました。
それから意気揚々と大学に行ったものの、同級生は男子学生ばかり、女子は祖母ともう一人の学生と合わせて、ただの二人でした。いつも周りの男子学生達からは、「女が何をしにここへ来ているんだ?」、とからかわれ、悪口も随分と言われた様ですが、それにもめげず、心無い言葉を浴びせられていたもう一人の女子学生と互いに励まし合いながら、心を強く持ち続けたそうです。
ジェンダーフリーが当たり前の現代人からは、想像しがたい様なキャンパスライフでしたが、それをものともせず、足を引っ張ろうとする男子学生達を無視しながら、強い意志を持って学業に邁進した結果、国家試験に合格し、祖母は薬剤師になるという夢を叶えたのでした。
彼女は薬剤師という仕事に誇りを持ち、その職をまっとうしましたが、人生で一番幸せだった事は何かと私が尋ねると、(もちろん祖父との結婚ではなく!)薬剤師になれた事、とよく語っておりました。
さて、或る時、祖母が若い頃の思い出話をしてくれました。
昔、彼女が勤めていた総合病院には、不定愁訴を強く訴える患者さんが通われており、その方が受診する際には、必ず担当の先生が「あの薬をお願いしますね」と、薬剤部に頼まれていたそうです。
それはどの様な事かと言うと、その患者さんに関しては、「例のお薬」として、どの家の台所にもある、お砂糖と片栗粉(でんぷん)を混ぜたものをオブラート紙に包んで、準備しておくという決まりになっていました。祖母は不思議に思いつつも、命じられた通り、作業を行いました。(現在ではこの様な処方はされませんが、古き昭和の時代には、症例によっては許容されていた様です。)
或る日、たまたまですが、彼女は初めてその患者さんにお薬を渡す事となりました。
その方は、「私は何年も体の調子が悪くて、色々な病院を転々としたのですが、どこで診てもらっても良くならなかったんです。でも、こちらの病院に通う様になってから、〇〇先生がいつも丁寧に話を聴いて下さって、薬を飲んだら、あれだけ苦しかったのが治ったんですよ!」、と顔をほころばせ、その旨を伝えられたそうです。
その時、祖母は、確かに難しい心臓の手術が行えたり、致死率の高い病気を治せる先生が、名医である事には間違いないけれど、こうして原因不明の長年の心身の苦しみから解放してあげられる先生も、また名医然り、と考えたとの事でした。
この患者さんの場合は、単に処方された薬を服用したからと言うだけではなく、何よりも、ご自身の訴えに耳を傾けられ、親身になって治療にあたられた、その担当の先生が処方して下さった薬であったからこそ、それが症状の消失という最大の効果を生んだ理由と言えるのではないかと思われました。
プラセボがもたらす、心理的な効果には測り知れないものがありますが、自然治癒力を含めて、人は何によって自らを癒す事ができるのか、改めて考えさせられた、古き良き時代の祖母の思い出話でした。
プラセボは “偽薬” を意味しますが、プラセボ効果は、乳糖やでんぷん等と言った、薬効のない成分でできた偽薬の服用によって、心身の症状が改善する事を表す言葉です。
人は「薬を飲んだ」と思うと、その認識から、実際には有効成分のないはずのものに身体が反応し、効果が発現してしまう事があるのです。
プラセボの語源は、ラテン語の「喜ばせる」から来ているそうですが、医学的な意味は既に1785年には記録されており、「患者の利益よりも喜ばせるために与えられる薬剤」と定義されました。
さて、私の祖母は、薬剤師として仕事をしておりました。
第二次世界大戦が起きる前の、いわゆる戦前の生まれでしたが、当時は女学校を卒業すると、お見合いをして結婚する、そして家庭に入り、子育てに専念、それが女性の一生の在り方の理想とされており、そこに “働く” という選択肢はないと考えられていた時代でした。
しかし、医師であった父親を見て育った祖母は、将来、彼女も医療の現場で人のためになる仕事がしたい、との願いを持つ様になり、十代始めから薬剤師になるという夢を描き始めました。
厳格な曾祖父は、「女に学問は必要ない、結婚が一番幸せな道だ」と、初めは大反対したそうですが、最終的には娘の熱意に負け、応援もする様になり、幸いに大学に入学して学べる事となりました。
それから意気揚々と大学に行ったものの、同級生は男子学生ばかり、女子は祖母ともう一人の学生と合わせて、ただの二人でした。いつも周りの男子学生達からは、「女が何をしにここへ来ているんだ?」、とからかわれ、悪口も随分と言われた様ですが、それにもめげず、心無い言葉を浴びせられていたもう一人の女子学生と互いに励まし合いながら、心を強く持ち続けたそうです。
ジェンダーフリーが当たり前の現代人からは、想像しがたい様なキャンパスライフでしたが、それをものともせず、足を引っ張ろうとする男子学生達を無視しながら、強い意志を持って学業に邁進した結果、国家試験に合格し、祖母は薬剤師になるという夢を叶えたのでした。
彼女は薬剤師という仕事に誇りを持ち、その職をまっとうしましたが、人生で一番幸せだった事は何かと私が尋ねると、(もちろん祖父との結婚ではなく!)薬剤師になれた事、とよく語っておりました。
さて、或る時、祖母が若い頃の思い出話をしてくれました。
昔、彼女が勤めていた総合病院には、不定愁訴を強く訴える患者さんが通われており、その方が受診する際には、必ず担当の先生が「あの薬をお願いしますね」と、薬剤部に頼まれていたそうです。
それはどの様な事かと言うと、その患者さんに関しては、「例のお薬」として、どの家の台所にもある、お砂糖と片栗粉(でんぷん)を混ぜたものをオブラート紙に包んで、準備しておくという決まりになっていました。祖母は不思議に思いつつも、命じられた通り、作業を行いました。(現在ではこの様な処方はされませんが、古き昭和の時代には、症例によっては許容されていた様です。)
或る日、たまたまですが、彼女は初めてその患者さんにお薬を渡す事となりました。
その方は、「私は何年も体の調子が悪くて、色々な病院を転々としたのですが、どこで診てもらっても良くならなかったんです。でも、こちらの病院に通う様になってから、〇〇先生がいつも丁寧に話を聴いて下さって、薬を飲んだら、あれだけ苦しかったのが治ったんですよ!」、と顔をほころばせ、その旨を伝えられたそうです。
その時、祖母は、確かに難しい心臓の手術が行えたり、致死率の高い病気を治せる先生が、名医である事には間違いないけれど、こうして原因不明の長年の心身の苦しみから解放してあげられる先生も、また名医然り、と考えたとの事でした。
この患者さんの場合は、単に処方された薬を服用したからと言うだけではなく、何よりも、ご自身の訴えに耳を傾けられ、親身になって治療にあたられた、その担当の先生が処方して下さった薬であったからこそ、それが症状の消失という最大の効果を生んだ理由と言えるのではないかと思われました。
プラセボがもたらす、心理的な効果には測り知れないものがありますが、自然治癒力を含めて、人は何によって自らを癒す事ができるのか、改めて考えさせられた、古き良き時代の祖母の思い出話でした。
2023.04.27 23:55
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