第2回川棚・コルトー音楽祭開催のお知らせ
昨年より、山口県下関市で開催されている「川棚・コルトー音楽祭」の第2回目となるコンサートが本年も行われる事になりました。
本年は、一流の演奏家によるマスタークラスをオーガナイズされ、これ迄に多くの若手を支援しておられる「京都フランス音楽アカデミー」の講師陣の方々から、フランスを代表する素晴らしいアーティストをお迎えして、リサイタルが開かれます。
「京都フランス音楽アカデミー特別演奏会 第2回川棚・コルトー音楽祭」
開催日時:4月5日(火) 午後7時開演(午後6時30分開場)
会場:川棚の杜・コルトーホール
出演:チェロ フィリップ・ミュレール ピアノ パスカル・ロジェ
プログラム:
シューマン 「アダージョとアレグロ 作品70」 「民謡風の5つの小品」
フォーレ 「チェロソナタ第2番」
ドビュッシー 「間奏曲」 「チェロとピアノの為のソナタ」
入場料:全席自由 一般3000円 高校生以下1500円 (当日は500円増し)
主催:コルトー音楽祭実行委員会 下関市川棚温泉交流センター
後援:下関市教育委員会 川棚温泉観光協会
製作協力:京都フランス音楽アカデミー 関西日仏学院
問い合わせ:下関市川棚温泉交流センター Tel 083-774-3855
ミュレール氏の奏でるチェロの音は、まさにビロードの様な滑らかさ、色彩感溢れる艶やかさで、その歌う様な美しさは聴く者を魅了します。
パリでは、幾度かコンサートに伺いましたが、フランス作品の演奏は極上の絶品でした!
アンサンブルを担う、ピアノのロジェ氏は、下関ではもう馴染み深い方になりつつあります。
数年前より、日本ツアーの折には山口県を毎年訪れておられ、私もいつも大変楽しみに演奏を聴かせて頂いております。
ミュレール氏はなかなか山口にはお見えにならなかったアーティストの一人かと思いますので、お近くにお住まいの方は、この素晴らしい機会をどうぞ逃されません様に!
多くの方々のお越しをお待ちしております!
2011.02.28 23:50
本との思い掛けない出会い
海外の友人から、これまでに沢山の本を頂いたが、全て大切に保管してあり、折に触れては読み返している。そうして、何度でも好きな時に楽しむ事が出来る所が好きだ。
贈られるのも大変嬉しいが、また贈る人を想って選ぶのも、心から楽しいひとときである。
イギリスやフランスの書店には、詳しくアドヴァイスしてくれる、いわば本のソムリエの様な店員がいて、懇切丁寧に教えてくれ、自国の本について薦めてくれるから、選ぶ時の心強い見方だ。
本と言えば、コンサートで知らない土地を訪れると、繁華街のこんな所に古書屋が・・・! という事がよくあり、通りすがりにふっと立ち寄ってみたりする。
すると、何故か不思議な事に、ちょうど探しているテーマの本が、何万冊という中から目に入ってきて、見つけられた事を本当に幸運に思うのである。
本が自分を呼んでくれていた、と言ったら大袈裟すぎるだろうか。
昨春に訪れた京都の四条河原町の古書屋では、偶然にも詩人ハイネの作品について分析された本を見つける事が出来た。
その本は、おそらく現在は絶版の、年代も戦後すぐという非常に古いものだろう。購入して、大変興味深く読んだ。
ところで、留学を終え日本に完全帰国する際に、荷物の整理で苦労を強いられるのは、どの学生もそうであろう。
数年以上も住めば、音楽学生は、衣類に加え、楽譜等の書籍の数が、いつの間にか膨大になっているものだ。
私の場合は、好きな作家の全作集やら、フランスの古典作品やらで、購入した本が山の様にある事に気付き、これを一体どの様にして日本まで送ろうか・・・ と頭を悩ませた。
通常の空便で送ると、重量がかさむので、ものすごい金額になってしまうなあ・・・
愛着のあった本だが、今後読み返す可能性のない本は、仕方がないが処分する事に決めた。
パリでは、街の美観を損ねる事がない様に、路上ではなく、よくアパルトマンの地下にゴミ置き場が設けてある。私の住居も、住人専用の鍵をエレベーターに差し込んで地下まで降り、ゴミを置いておくと、収集に来てもらえるというシステムになっていた。
何となく悲しい思いで、本に別れを告げるべく地下へ行くと、一人の住人の男性が、先に来ていた。
互いに挨拶をして、私が大量の本を置いて去ろうとするのを彼は見た。すると、即座に「それは、もう必要ないのですか?」と尋ねてきた。
事情を説明すると、「それなら、欲しい本をもらって帰りたいのですが、ちょっと見ても良いですか?」と言った。私は、「是非そうして下さい」と答えた。
捨てられかけた本が、また新たな人の所へ行き、役に立ってくれるのだと考えると、心から嬉しかった。
他の不要な物を整理して、再び地下のゴミ置き場へ戻ってくると、なんと私の本は一冊もなく消えてしまっていたのである! おそらく、他の住人も、気に入ったものをもらってくれたのだろう。
使える物は最後まで大切にするという、フランスの人々のごく自然な行為を、目の当たりにした日であった。
シチュエーションは様々だが、本と人とは、思い掛けない瞬間に出会いが在る。
出会いの喜びをもらう側、そして与える側にも、ささやかではあるが、心温かくなる幸福のひとときが訪れる。
2011.02.17 21:55
「冬」に聴く音楽
寒いのが不得手な自身にとっては、あまり喜ばしい事ではなく、本番がある日には、どうやって冷えきった指を温めたら良いのか苦労している。
容赦ない自然の、冬の厳しさである。
ヴィヴァルディの「四季」を筆頭に、季節を表現した音楽は数々存在するが、ほぼ全作品において一年を通して鑑賞を楽しむ事が出来ると言えるであろう。
その中でも、やはり例外はあって、冬にだけ特別聴きたい音楽が、個人的にはある。
それは、シューベルト作曲の「冬の旅」だ。
ドイツリートを最高水準にまで極めた彼の三大歌曲のひとつとして、作曲家の成し遂げた偉業を呈する作品である。
歌曲「美しき水車小屋の娘」では、主人公は最後に死というものにいわば逃避した形として結末を迎えるが、この「冬の旅」では、もはや死ぬ事さえも許されず、人間の生は否応なしにこの世に生まれた者の前に存在し、そこからは逃れられないという、実存主義について描かれ、大変深い解釈が必要とされるテクストが用いられている。
24のピースに込められた、詩人ミュラーとまた作曲家シューベルトの心象風景を表したこの哲学的で壮大な作品によって、シューベルトはドイツリートの世界に金字塔を打ち建てた。
それだけに、聴くのもそうだが、増してや演奏するのは、若いうちは大変畏れ多いという気がする。
それは、ピアニストにとっては、まるでベートーヴェンのピアノソナタ全曲を演奏する時の心構えと同じ気持ちで挑む位の事だ。
音楽が成熟していないうちに「冬の旅」を演奏をする事は、遭難覚悟でエベレストを一歩ずつ登るのと同じ様な事である。
友人のピアニストは、周囲に反対されつつも、大変若い頃からベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏をリサイタルで行い、円熟した年を迎えた現在までに、何度かこのプロジェクトを成功させてきた。
「全曲を弾き終えた後には、自分が再び生を受けて、毎回新しく生まれ変わっている様な気がしている」と言っていた。
だから、私にも「未熟でも何でもまず公開で演奏してみる事が大切」とよく唱えている。
「偉大な作品を前にして、決してひるむ事はない」と。
恐らく「冬の旅」も、これに匹敵するのではないかと私は考えている。
この度、新年から「冬の旅」に取り組んでいるが、この作品ほど歌とピアノが織り成す世界が深淵で、また容赦ない厳しさを持って奏者の前に現れてくるものは、大変稀有であると思う。
一音弾いてみては、自分の出している音にがっかりする。
現段階では、描かれている風景を全て音に表現出来る所まで到達しないもどかしさでいっぱいだ。
それでも「冬の旅」に挑み、作品に対する自身のあくなき追求の長い旅-終わりなき永遠の旅-が今年から漸く始まった。
2011.02.09 22:50
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