コラム

チョコレートの陰には真に大切なものが存在しているのかもしれません…

大の甘党である私は、悪名高い言葉を放ったかのマリー・アントワネットには程遠いものですが、食事の際に、パン等の主食の代わりとして、ついスイーツを口にしてしまう事がしばしばあります。
全く健康に良くないという事は、百も承知の上ですが…。

欧州で暮らしていた頃には、毎日の様に味わう事の出来る、ほっぺたの落ちそうなお菓子の数々のお陰もあり、お味噌汁や炊きたての白いご飯と言った和食を、恋しいと感じる日がほとんどありませんでした。
現地の音楽仲間が教えてくれた、地元の人だけが美味しいと知る、隠れた名店の様なチョコレートも絶品でしたが、やはりクラシック音楽の作曲家に例えるならば、不動の地位を成すベートーヴェンやモーツァルトに匹敵する、フランスの一流ブティック「メゾン・デュ・ショコラ」には、パリ滞在中に足繁く通いました。
よくお気に入りの無花果のジャムを購入して、近くのパン屋でバゲットとバターのたっぷり入ったクロワッサンを調達し、チョコレートと一緒に食事のひとときを楽しんでいました。

ご存じの様に、メゾン・デュ・ショコラでは、お会計の後に「お好きなチョコレートをひとつどうぞ」と店員が言われるので、宝石の様な1粒を自ら選んで、それをとても幸運なエクストラ・チョコレートとして、帰る前に味わう事が出来ます。
或る日、いつもの様にお店を訪れると、その味わえる“1粒の幸せ”が、大変喜ばしくトリュフ・ア・ラ・シャンパーニュ(シャンパン入りの生トリュフ)に限定されていた事がありました。大切に手に取って頂いてみると、単に美味であるという事を超えて、繊細でゆっくりと溶けてゆくテクスチャーや、口の中で広がるお酒とチョコレートの香りのマリアージュの素晴らしさに心を奪われました…。
「日持ちがしないので、もしも気に入ったら、ぜひ大切な方に買って、わざわざ会いに駆けつけて、すぐにプレゼントして下さいね!」と、店員はいかにもフランス人らしく粋なジョークをお土産に持たせてくれ、ほっこりしながらお店をあとにした、そんな学生時代の小さな思い出のひとつです。

さて、本日はバレンタインデーですが、少し特別な気分で(?)過ごされる方も多くいらっしゃるのではないかと存じます。
昨今では、本命や義理チョコの他に、友チョコ、家族間で渡すファミチョコ、はたまた私チョコやご褒美チョコ、男性から女性に渡す逆チョコもあり… 男性のみならず、「あの人はくれるかな?」、「今年は一体何個もらえるのだろう?」と、朝から落ち着かず、そわそわしながら1日を過ごされる方は、決して少なくない様ですね。

実は、人々はチョコレートという姿かたちを借りて、この2月14日に、日頃なかなか上手く表現する事の叶わない気持ちや心を相手に贈られる貴重な機会として、言葉の代わりにプレゼントをしているのではないかしら、と感じています。
いささか大袈裟ですが、欧米の方々はまるで口癖の様に「ありがとう」を、いつも顔を合わせている身近な人にも、度々口に出してきちんと言います。
習慣の違いもありますが、親しくなると、日本ではかえって感謝の気持ちを表わさなくなってしまうという状況が多いのではないでしょうか。敢えて言わなくとも、お互いに分かっているでしょう、という認識や、暗黙の了解が邪魔をしているのですね。

どの様なチョコレートかという内容そのものには、こだわりのある人を除いて、あまりウエイトは置かれなくとも良い様に感じますが、自身も含め、愛情や感謝を表現する事が得意ではない民族にとって、言葉を語ってくれる様な、また気持ちを代わりに伝えてくれるチョコレートは、恐らく大切な存在であるのでしょうし、ホワイトデーも含め、贈り合う行為は、間違いなく日本の文化のひとつとして、これからも末永く続けられてゆくであろうと推測します。

このチョコレートに、果たしてどんな思いが込められているのか… 想像しながら頂く贈り物は、まさにエスプリの効いた、源氏物語に登場する素敵な和歌の翻意を読む様でもあり、大切な“あなた”がいるという事を相手が再認識して、心を届けられるあたたかい貴重なイベントであると言えそうです。





2017.02.14 01:45

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