コラム

歩くために歩く事はできるのか?

コロナ禍においては、気軽にスポーツを楽しむひとときも、制限されてしまうのは致し方ありません。しかし幸いにも、有酸素運動には、ひとりでできるもののも少なからずありますね。
その代表的なもののひとつがウォ―キングになりますが、脂肪を燃焼させたり、血圧の安定にも効果がある他、血流の促進をもたらしてくれます。
私は、なかなか良いアイデアが浮かばず四苦八苦している様な時に、少し外を歩いてみると、ふとひらめく事がありますが、これはもしかすると脳の血流が改善されて、思考の精度が高められるからなのかもしれません。
そして、有酸素運動と言うからには、筋肉を動かすエネルギーとして、血糖も酸素と共に使われるため、血糖の上昇を抑えたいと考えている方は、食後という時間を選んで歩いてみると大変理想的です。

最近では、携帯でも簡単に計測できる歩数ですが、ひと昔前は「万歩計」なるものが主流で、それをスカートやズボンに装着して、チェックしながら、「今日は何歩歩いたかしら?」、と歩数を把握していました。
私はこの万歩計というネーミングが、一般的な呼び名であるとばかり思っておりましたが、調べてみた所、山佐時計計器株式会社の登録商標であるという事を知りました。
一般名については、歩数計と言うのが正しいそうです。

さて、一度耳にしたら誰もが忘れられない、キャッチ―な「万歩計」ですが、万歩であるからには「やはり1万歩を歩かなければいけないの? それを目指して歩くべき?」、という小さなノルマの様なプレッシャーを感じてしまい、それはきっと私だけに起こる事ではない様に思われます。
しかし、実際にはその1万歩に「健康のために良い」というエビデンス(科学的な根拠)が、本当にあるのでしょうか?

2019年に、ハーバード大学の研究から、高齢女性のウォーキングで調査した結果、7500歩より多い歩数では、平均寿命の伸び方等の評価において、有益性の高まりが見られなかった、との結果が報告されました。つまり1万歩という数を(無理に)達成しようとする意義はさほど認められないので、特にこの1万歩にこだわらなくとも良いのだ、と理解できます。
また、1日の平均歩数が2700歩を下回る場合、死亡率が最も高くなり、4400歩まで増えると、反対に死亡率は41%下がるという事も判明したため、少なくとも5000歩は目指してウォーキングを行なう方が効果的ではある様です。
ただ、この唯一の研究結果が「絶対」ではありませんし、もし持病がない健康な体であって、本人が心身への負担を感じないのであれば、7500歩を超過して歩くという事へのデメリットはないと言えるでしょう。従って、1万という数が決して意味がないと否定される訳ではなく、もし可能なのでしたら、なるべく多く歩けるに越した事はないのです。
ただ、過ぎたるは何とやらになりません様、どうかご自身に一番マッチした、最適な歩数を探されてみて下さいね。

自宅の近くでは、午後7時を過ぎた頃から、近所の高齢のご夫婦が、一緒に歩かれている姿をよく見掛けます。
大変勝手な想像で失礼しますが、もしかしたら、お二方はかかりつけのお医者様に、「食べた後に歩いて下さいね」と勧められて、毎晩ウォーキングをされているのかもしれません。もし本当にそうなのだとしたら、ウォーキングが単なる歩行という気軽な目的ではなく、「歩くために歩く」という、自らを律するための、厳格さを持った特別なエクササイズとなります。自分自身は、とてもこの方々の様に毎日は続けられないなあと思いながら、深い尊敬の眼差しで拝見しています。
まさに、千里の道も一歩から… 
私も心身の健康のために、ウォーキングをもっと活用できる様になる日を夢見ています。

【参考文献】
Lee I-M.et al.
Association of Step Volume and Intensity With All-Cause Mortality in Older Women
JAMA Intern Med.2019;179(8):1105-1112

2022.03.26 23:05

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