コラム

「神が宿る島」に思いを馳せる

世界遺産として名高い厳島神社のある宮島は、情緒のある美しい名所のひとつです。最近ではインバウンドとして訪れる外国人観光客も大変多く、人気が高い事で知られています。
海の上に立つ朱い大鳥居は、干潮時には歩いて近付く事が可能で、満潮時には海に浮かぶ神秘的な姿が印象的です。また夜になるとライトアップされ、幻想的な風景を楽しむ事ができます。

ドビュッシーの「前奏曲集第1巻」の中のひとつにある “沈める寺” は、フランスのブルターニュ地方に伝わる伝説からインスピレーションを得て書かれた作品です。
海底に沈んだ大聖堂が時折、海の上に姿を現すという物語を、教会の鐘や、聖歌、波の音等で彼は表現しました。厳かな雰囲気の中に、平行和音(和音の進行において、構成音が全て平行移動によって作られるものを指す)が生み出す独特の浮遊感や、無調でありながら東洋らしきものをイメージさせる何かがあり、まるでその伝説の時代にワープするかの如く、聴く人に不思議な感覚を抱かせる、大変神秘的で美しい音楽です。言葉では表現し難いのですが、天から聴こえる何かを、この作品を演奏する際には感じる瞬間もあります。またそれらの和音が持つ響きから、日本人が親近感を抱く音楽ではないかと考えられます。

ドビュッシーのピアノ作品全集(CD)をリリースされており、まさにスペシャリストとして、フランスを代表するピアニストの一人であるミッシェル・ベロフ先生のマスタークラスをパリで受講した折に、この“沈める寺”について貴重な教えを頂く機会に恵まれました。
度々来日されている先生は、この作品の背景にあるストーリーと厳島神社に共通する神秘性についてすぐさま挙げられましたが、それまでに海に浮かぶ(様に見える)大鳥居を見ていた私はそれを頭に浮かべながら、会話がはずんだ事を思い起こします。

宮島を訪れると、何故か懐かしさを感じる様な、とても温かい気持ちになります。
たくさんの鹿と触れ合えるのも、心が和む要素のひとつです…(ただ、人に慣れ過ぎているので、手に食べ物を持っていたりすると、向こうから近寄ってきて大変な目に…?!)
この時期は、牡蠣を美味しく頂く事もでき、大都市の喧騒から離れて数日間過ごすのも、大変意義のあるひとときとなるでしょう。
パワースポットとしても知られ、人々の心を豊かにさせる素敵な宮島に、ぜひ近いうちに再訪できたらと心から願っております。

2025.03.16 23:05

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