コラム

決して苦くない“良薬”があるとすれば…?

お薬と言えば、「苦い」そして「美味しいものでは全くない」ですし、「味わうどころか、水でそそくさと胃に流し込んでしまう」ものとして、イメージを持っておられる方が大半であると思います。
小学校に上がる前に、風邪を引くといつも小児科の医師の先生に処方して頂いたシロップ状のお薬の、当時は好きでありながら、幼いながらに感じたその不自然で人工的な強い甘さを思い起こす他は、その多くが味の良くないものとして、私自身の頭の中には喚起されます。

ところが、ゆったりと心ゆくまで(?)味わう事の出来る、決して苦くないお薬も、実は存在しているのです。
皆様、ご存じでしたでしょうか…?
そのひとつが、まさしく“音楽”であると言えましょう。

古代ヒポクラテスの時代から、音楽はれっきとした治療薬として用いられ、鑑賞する事も、また実際に楽器を奏でる事も、そして我が国では多くの人が愛するカラオケで声を出して歌う事も、実は立派に人間の心身への作用を生み出しているのです。
音楽により神経科学における恩恵を受けられる事がよく言われますが、免疫力を高めたり、気持ちのコントロールに役立てられるかどうかについて、実際に海外で研究がなされ、その効能は広く知られるところとなっています。
とりわけ、音楽が人間の自律神経に働き掛ける力は大きく、ロックやジャズ等に見られるアグレッシブな作品は、交感神経をより高め、やる気やモチベーションの維持を促すのに対し、優雅で静寂なクラシック音楽の作品は、副交感神経に働き掛け、心拍数や血圧を下げたり、良い眠りを導く効果をもたらしています。

クラシック音楽に関して言えば、積極的に日常生活の中に取り入れて、ビタミン剤の様に日々の活力として効能を期待する事も可能ですし、また反対にクラシック音楽を鑑賞するという事を一種の日常生活から離れた非日常の出来事として、現実との距離を置くための行為としてとらえ、精神のリフレッシュ作用を高めるという事も大いになされている様ですね。

このクラシックの与える、いささか大袈裟ですが“非日常感”というものを、本来はセラピーといった側面をより重視する病院や施設でのコンサートおいて、多くの患者様とひとときを共有させて頂く中で、私は最近とみに大切である様に感じています。

或る日、何らかの病気に罹っていると診断されてから、入院を余儀なくされ治療を受け始める事は、それまで健康であった人にとり、否応なく非日常の空間の中へ突如押し込められる様なものです。
やがて入院生活が少し長くなると、それが今度は日常化され、毎日が代わり映えしないと感じられる様になり、一日の時の経過が恐ろしく遅く、単調なものとなってきます。
その様な時に、ここぞとばかり… 良薬の音楽の出番です。
音楽アレルギーと呼ばれる方も中にはおられるでしょうが、当然副作用もなく、その上安心して存分に味わう事さえも出来るお薬であると断言出来ます。

医療者と患者の営みの中で、日々刻々と過ぎてゆく「命の現場」の時間と、その病院のごく“日常”の風景に、ほんの少しだけでも色彩感を加えられる事が出来たら…
拙い考えを一生懸命巡らせながら、これからも病院や施設では演奏を続けてゆきたいと願っております。
柔らかな音楽の波に心と体を委ねて、心地良くゆったりとした気持ちで、お聴き下さる方々が心の葛藤や様々な問題に対処出来る事を願って、またご自身の精神が音楽によるカタルシスの効果で浄化され、体にある悪い箇所がきっと癒えると信じて頂ける様な理想的な音を目指して、より精進してまいりたいと存じます。












2016.08.29 23:10

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