シンプル・イズ・ザ・ベスト?
新型コロナが流行してからは、翻訳に関わらせて頂く機会が増えましたが、訳すという作業は単に多言語を扱えれば良いというものではなく、興味深い反面、実際に文章を書いた方が伝えようとしているものについて、求められている言語で的確な言葉を選び、確実に読者へ届けられる様にしなければならないという難しさがあります。
訳者のセンスや国語の能力が大きく問われる事は言うまでもありませんが、非常にやりがいのある仕事です。
それは、作曲家が数多(あまた)の音符に託した思いを、演奏者はいかに忠実に音楽を通じて表現し聴衆に伝えられるか、という事に少し似ているかもしれません。
日常生活で、無意識に使っている日本語の言葉も、一語ずつ訳して文章にしてみますと、果たしてこの使い方で正しかったのか… と確信が持てない事もしばしばありますが、辞書で調べてみて、以外な意味を持つ言葉であると知ったりする等、小さな発見ができる喜びもあります。
さて、先日、或るデパートの地下で買物をした際の事です。
品物をレジで打ってもらい、支払う前にレジ係の店員さんから「お箸はご入用ですか?」、と尋ねられました。私にはその必要がありませんでしたので、「結構です」、と答えました。
すると、対応されたその女性店員さんは、「それはどちらの意味でしょうか?」、と聞き返されたのです。
最近は、多くのお店が国際化しており、留学生であったり、また海外から日本に移住して働いている様な職員も増えつつあります。もしかすると、その人の母国語は日本語ではなく、私が言った言葉の意味がよく理解できなかったのかもしれない、と思い、その女性店員さんのネームプレートを見ると、日本人にはよくある姓が書かれていました。
日本人男性と結婚したアジアの女性である可能性もありましたが、おそらくその店員さんは日本国籍の人であると思われ、私は何か間違った言葉の使い方をしたかしら…?と不思議に思い、「お箸は要りません、という事です」、と言うと、「わかりました」、と彼女はにこにこしながら答えました。
「結構」という言葉を肯定的な意味としてとらえるのは、もちろん正しいですし、例えば「結構な物を頂き有難うございます」、という表現は、日常的によくなされるのではないかと思います。
ただ「それは結構」、という表現であった場合には、個人的には昔の時代の偉いお殿様か、或いは現代では会社の社長さんかどなたかの様に、何か社会的地位の大変高い方が、やや上から目線で「それはよろしい、受け入れましょう」、というニュアンスで使われるイメージがあります。私はお殿様でも社長でもありませんから、「不要です」、という意味で「結構です」、と言いましたが…。
しかし、よく考えてみますと、その様な紛らわしい言い方をした私自身に問題があった訳で、この様な時は、それこそ英語の「No, thank you」の様に、「お箸は要りません、気を遣ってくれてどうも有難う」、等と言えていれば、相手にも確実にこちらの思いが伝わったに違いありません。
そうした事に気付かせてくれたこの店員さんに感謝し、それ以来、お店等では、要ります、また要りません、という言葉を使って、ダイレクトにわかりやすく伝える方が良い、と考える様になりました。
以前、どなたかの著書で読みましたが、なぜ日本では礼儀が重んじられ、少しまわりくどい様な言い方を好み、欧米ではより直接的な表現を好むのか、それに対する答えがシンプルに書かれていました。
それは端的に言えば、日本が単一民族で成り立っている国であり、対する移民の多い欧米諸国では、人々は一様ではない考え方を持っている事から、言葉はよりシンプルで直接的でなければ、相手に伝わらないという背景がある故だそうです。
同じ英語でも、米国の方が話されるのを聞きますと、意味が明確に聞こえてきて、英語が第一言語でない者には大変わかりやすいのですが、英国の方は日本語に少し近いとも言える間接的な話し方をされるため、相手が言われた言葉をよく考えて「真の意味」を理解しなければならないという事がしばしばあります。
例えば、mind という言葉には、気にする、嫌だと思う、という意味がありますが、「Do you mind ~ing?」(=~してくれない?)という表現は、相手の気持ちを考えながら依頼する、「~してもらっても良い?」と、気を遣いながらお願いをするという様なニュアンスがあり、大変英国らしい表現であると、いつも思いながら聞いています。
言葉はもちろん生きていますし、時代によって変化もしますが、それぞれの国が持つ文化や歴史を知りながら、言語の成り立ちを習得するのも、楽しく学びがいのある事ではないでしょうか。
訳者のセンスや国語の能力が大きく問われる事は言うまでもありませんが、非常にやりがいのある仕事です。
それは、作曲家が数多(あまた)の音符に託した思いを、演奏者はいかに忠実に音楽を通じて表現し聴衆に伝えられるか、という事に少し似ているかもしれません。
日常生活で、無意識に使っている日本語の言葉も、一語ずつ訳して文章にしてみますと、果たしてこの使い方で正しかったのか… と確信が持てない事もしばしばありますが、辞書で調べてみて、以外な意味を持つ言葉であると知ったりする等、小さな発見ができる喜びもあります。
さて、先日、或るデパートの地下で買物をした際の事です。
品物をレジで打ってもらい、支払う前にレジ係の店員さんから「お箸はご入用ですか?」、と尋ねられました。私にはその必要がありませんでしたので、「結構です」、と答えました。
すると、対応されたその女性店員さんは、「それはどちらの意味でしょうか?」、と聞き返されたのです。
最近は、多くのお店が国際化しており、留学生であったり、また海外から日本に移住して働いている様な職員も増えつつあります。もしかすると、その人の母国語は日本語ではなく、私が言った言葉の意味がよく理解できなかったのかもしれない、と思い、その女性店員さんのネームプレートを見ると、日本人にはよくある姓が書かれていました。
日本人男性と結婚したアジアの女性である可能性もありましたが、おそらくその店員さんは日本国籍の人であると思われ、私は何か間違った言葉の使い方をしたかしら…?と不思議に思い、「お箸は要りません、という事です」、と言うと、「わかりました」、と彼女はにこにこしながら答えました。
「結構」という言葉を肯定的な意味としてとらえるのは、もちろん正しいですし、例えば「結構な物を頂き有難うございます」、という表現は、日常的によくなされるのではないかと思います。
ただ「それは結構」、という表現であった場合には、個人的には昔の時代の偉いお殿様か、或いは現代では会社の社長さんかどなたかの様に、何か社会的地位の大変高い方が、やや上から目線で「それはよろしい、受け入れましょう」、というニュアンスで使われるイメージがあります。私はお殿様でも社長でもありませんから、「不要です」、という意味で「結構です」、と言いましたが…。
しかし、よく考えてみますと、その様な紛らわしい言い方をした私自身に問題があった訳で、この様な時は、それこそ英語の「No, thank you」の様に、「お箸は要りません、気を遣ってくれてどうも有難う」、等と言えていれば、相手にも確実にこちらの思いが伝わったに違いありません。
そうした事に気付かせてくれたこの店員さんに感謝し、それ以来、お店等では、要ります、また要りません、という言葉を使って、ダイレクトにわかりやすく伝える方が良い、と考える様になりました。
以前、どなたかの著書で読みましたが、なぜ日本では礼儀が重んじられ、少しまわりくどい様な言い方を好み、欧米ではより直接的な表現を好むのか、それに対する答えがシンプルに書かれていました。
それは端的に言えば、日本が単一民族で成り立っている国であり、対する移民の多い欧米諸国では、人々は一様ではない考え方を持っている事から、言葉はよりシンプルで直接的でなければ、相手に伝わらないという背景がある故だそうです。
同じ英語でも、米国の方が話されるのを聞きますと、意味が明確に聞こえてきて、英語が第一言語でない者には大変わかりやすいのですが、英国の方は日本語に少し近いとも言える間接的な話し方をされるため、相手が言われた言葉をよく考えて「真の意味」を理解しなければならないという事がしばしばあります。
例えば、mind という言葉には、気にする、嫌だと思う、という意味がありますが、「Do you mind ~ing?」(=~してくれない?)という表現は、相手の気持ちを考えながら依頼する、「~してもらっても良い?」と、気を遣いながらお願いをするという様なニュアンスがあり、大変英国らしい表現であると、いつも思いながら聞いています。
言葉はもちろん生きていますし、時代によって変化もしますが、それぞれの国が持つ文化や歴史を知りながら、言語の成り立ちを習得するのも、楽しく学びがいのある事ではないでしょうか。
2023.11.29 23:55
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