本との思い掛けない出会い
欧米では、親しい人との間で、花やチョコレートと同様に、本を贈り合うという素敵な習慣がある。
海外の友人から、これまでに沢山の本を頂いたが、全て大切に保管してあり、折に触れては読み返している。そうして、何度でも好きな時に楽しむ事が出来る所が好きだ。
贈られるのも大変嬉しいが、また贈る人を想って選ぶのも、心から楽しいひとときである。
イギリスやフランスの書店には、詳しくアドヴァイスしてくれる、いわば本のソムリエの様な店員がいて、懇切丁寧に教えてくれ、自国の本について薦めてくれるから、選ぶ時の心強い見方だ。
本と言えば、コンサートで知らない土地を訪れると、繁華街のこんな所に古書屋が・・・! という事がよくあり、通りすがりにふっと立ち寄ってみたりする。
すると、何故か不思議な事に、ちょうど探しているテーマの本が、何万冊という中から目に入ってきて、見つけられた事を本当に幸運に思うのである。
本が自分を呼んでくれていた、と言ったら大袈裟すぎるだろうか。
昨春に訪れた京都の四条河原町の古書屋では、偶然にも詩人ハイネの作品について分析された本を見つける事が出来た。
その本は、おそらく現在は絶版の、年代も戦後すぐという非常に古いものだろう。購入して、大変興味深く読んだ。
ところで、留学を終え日本に完全帰国する際に、荷物の整理で苦労を強いられるのは、どの学生もそうであろう。
数年以上も住めば、音楽学生は、衣類に加え、楽譜等の書籍の数が、いつの間にか膨大になっているものだ。
私の場合は、好きな作家の全作集やら、フランスの古典作品やらで、購入した本が山の様にある事に気付き、これを一体どの様にして日本まで送ろうか・・・ と頭を悩ませた。
通常の空便で送ると、重量がかさむので、ものすごい金額になってしまうなあ・・・
愛着のあった本だが、今後読み返す可能性のない本は、仕方がないが処分する事に決めた。
パリでは、街の美観を損ねる事がない様に、路上ではなく、よくアパルトマンの地下にゴミ置き場が設けてある。私の住居も、住人専用の鍵をエレベーターに差し込んで地下まで降り、ゴミを置いておくと、収集に来てもらえるというシステムになっていた。
何となく悲しい思いで、本に別れを告げるべく地下へ行くと、一人の住人の男性が、先に来ていた。
互いに挨拶をして、私が大量の本を置いて去ろうとするのを彼は見た。すると、即座に「それは、もう必要ないのですか?」と尋ねてきた。
事情を説明すると、「それなら、欲しい本をもらって帰りたいのですが、ちょっと見ても良いですか?」と言った。私は、「是非そうして下さい」と答えた。
捨てられかけた本が、また新たな人の所へ行き、役に立ってくれるのだと考えると、心から嬉しかった。
他の不要な物を整理して、再び地下のゴミ置き場へ戻ってくると、なんと私の本は一冊もなく消えてしまっていたのである! おそらく、他の住人も、気に入ったものをもらってくれたのだろう。
使える物は最後まで大切にするという、フランスの人々のごく自然な行為を、目の当たりにした日であった。
シチュエーションは様々だが、本と人とは、思い掛けない瞬間に出会いが在る。
出会いの喜びをもらう側、そして与える側にも、ささやかではあるが、心温かくなる幸福のひとときが訪れる。
海外の友人から、これまでに沢山の本を頂いたが、全て大切に保管してあり、折に触れては読み返している。そうして、何度でも好きな時に楽しむ事が出来る所が好きだ。
贈られるのも大変嬉しいが、また贈る人を想って選ぶのも、心から楽しいひとときである。
イギリスやフランスの書店には、詳しくアドヴァイスしてくれる、いわば本のソムリエの様な店員がいて、懇切丁寧に教えてくれ、自国の本について薦めてくれるから、選ぶ時の心強い見方だ。
本と言えば、コンサートで知らない土地を訪れると、繁華街のこんな所に古書屋が・・・! という事がよくあり、通りすがりにふっと立ち寄ってみたりする。
すると、何故か不思議な事に、ちょうど探しているテーマの本が、何万冊という中から目に入ってきて、見つけられた事を本当に幸運に思うのである。
本が自分を呼んでくれていた、と言ったら大袈裟すぎるだろうか。
昨春に訪れた京都の四条河原町の古書屋では、偶然にも詩人ハイネの作品について分析された本を見つける事が出来た。
その本は、おそらく現在は絶版の、年代も戦後すぐという非常に古いものだろう。購入して、大変興味深く読んだ。
ところで、留学を終え日本に完全帰国する際に、荷物の整理で苦労を強いられるのは、どの学生もそうであろう。
数年以上も住めば、音楽学生は、衣類に加え、楽譜等の書籍の数が、いつの間にか膨大になっているものだ。
私の場合は、好きな作家の全作集やら、フランスの古典作品やらで、購入した本が山の様にある事に気付き、これを一体どの様にして日本まで送ろうか・・・ と頭を悩ませた。
通常の空便で送ると、重量がかさむので、ものすごい金額になってしまうなあ・・・
愛着のあった本だが、今後読み返す可能性のない本は、仕方がないが処分する事に決めた。
パリでは、街の美観を損ねる事がない様に、路上ではなく、よくアパルトマンの地下にゴミ置き場が設けてある。私の住居も、住人専用の鍵をエレベーターに差し込んで地下まで降り、ゴミを置いておくと、収集に来てもらえるというシステムになっていた。
何となく悲しい思いで、本に別れを告げるべく地下へ行くと、一人の住人の男性が、先に来ていた。
互いに挨拶をして、私が大量の本を置いて去ろうとするのを彼は見た。すると、即座に「それは、もう必要ないのですか?」と尋ねてきた。
事情を説明すると、「それなら、欲しい本をもらって帰りたいのですが、ちょっと見ても良いですか?」と言った。私は、「是非そうして下さい」と答えた。
捨てられかけた本が、また新たな人の所へ行き、役に立ってくれるのだと考えると、心から嬉しかった。
他の不要な物を整理して、再び地下のゴミ置き場へ戻ってくると、なんと私の本は一冊もなく消えてしまっていたのである! おそらく、他の住人も、気に入ったものをもらってくれたのだろう。
使える物は最後まで大切にするという、フランスの人々のごく自然な行為を、目の当たりにした日であった。
シチュエーションは様々だが、本と人とは、思い掛けない瞬間に出会いが在る。
出会いの喜びをもらう側、そして与える側にも、ささやかではあるが、心温かくなる幸福のひとときが訪れる。
2011.02.17 21:55
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